駅前のカルチャースクールで講座を終えた僕は、
生徒さんとデパートの中でお茶を飲み、別れ、そして
ふと、改札のところにポツンと立っている京介に
気が付いた。
「京介!どうしたんだい、こんなところで」
周囲の耳目を一身に集めていた京介は、人ごみの中から
ひょいと驚いた顔を覗かせた僕を見て、ふんわりと
嬉しそうに微笑んだ。
「近くまで来たものですから、ご一緒に帰宅しようと
思いまして」
「ええっ。だったら教室に電話をくれれば良かった
じゃないか。いつから待っていたんだい」
「なに。大した時間ではありませんよ。愛しい人のことを
考えて待つ時間ほど、有意義で心躍る時はありませんから」
そう言う京介の頬は、少し寒さで紅くなっていた。
僕は講座を終えて、生徒さんと喫茶店でお茶を飲んで、しゃべって
ゆうに1時間は話していた計算になるわけで。
「・・・帰ろうか」
「はい」
僕と京介は、まだ一緒に住み始めたばかりで、正直に言うと、
僕は京介が隠さずに差し伸べてくれる行為に対して戸惑っていた
部分があった。
一緒に暮らすことだって慣れていなくて、だから自然と気を
使いすぎて、生活時間帯がすれ違っていたときだった。
「ユウさん、今日は一段と冷え込んできましたね」
「そうだね。昨日、木枯らし一号が吹いたらしいから、
そろそろ本格的に冬だよ」
「こちら、私の・・・その、そう、お古なのですが良かったら
お使いになられませんか」
「きみのお古?」
そう言って京介が僕に手渡してくれたのは手袋だった。しかも
どう見ても新品。
「これって・・・」
「サイズを間違えて購入してしまいまして。返しに行くのが
面倒だったものですからよろしければ。もちろん過去に使用経験が
あるものがお嫌じゃなければ」
そう口では飄々と言ってのける京介の目は真剣そのもので。
確かに、その時の僕は手袋を持っていなかった。いつだって
コートのポケットに自分の手を突っ込んで歩いていたことも事実で。
僕は自分の手の上にふんわりと置かれたカシミヤなのだろう、
柔らかくて、温かい、まるでバラの茎みたいな鮮やかなモス・グリーン
の手袋を、それよりも温かさが優しさに変わった温もりを抱くように
その中に手を差し入れた。
「・・・ありがとう。その、大事に借りさせてもらうよ」
「ええ、そうしてくださると助かります」
僕の変な日本語を指摘もせずに、京介は肩を撫で下ろした。
「あったかい」
「ええ、もちろん愛の力が加算されていますから」
「はいはい」
僕は笑って、手袋をした自分の手を、この冬一番の冴え冴えとした
月の光の中に何度も映した。
この年の冬、一番最初に寒くなった日。
僕は初めてClassic ROSEに手を通し、その温かさを知った。
生徒さんとデパートの中でお茶を飲み、別れ、そして
ふと、改札のところにポツンと立っている京介に
気が付いた。
「京介!どうしたんだい、こんなところで」
周囲の耳目を一身に集めていた京介は、人ごみの中から
ひょいと驚いた顔を覗かせた僕を見て、ふんわりと
嬉しそうに微笑んだ。
「近くまで来たものですから、ご一緒に帰宅しようと
思いまして」
「ええっ。だったら教室に電話をくれれば良かった
じゃないか。いつから待っていたんだい」
「なに。大した時間ではありませんよ。愛しい人のことを
考えて待つ時間ほど、有意義で心躍る時はありませんから」
そう言う京介の頬は、少し寒さで紅くなっていた。
僕は講座を終えて、生徒さんと喫茶店でお茶を飲んで、しゃべって
ゆうに1時間は話していた計算になるわけで。
「・・・帰ろうか」
「はい」
僕と京介は、まだ一緒に住み始めたばかりで、正直に言うと、
僕は京介が隠さずに差し伸べてくれる行為に対して戸惑っていた
部分があった。
一緒に暮らすことだって慣れていなくて、だから自然と気を
使いすぎて、生活時間帯がすれ違っていたときだった。
「ユウさん、今日は一段と冷え込んできましたね」
「そうだね。昨日、木枯らし一号が吹いたらしいから、
そろそろ本格的に冬だよ」
「こちら、私の・・・その、そう、お古なのですが良かったら
お使いになられませんか」
「きみのお古?」
そう言って京介が僕に手渡してくれたのは手袋だった。しかも
どう見ても新品。
「これって・・・」
「サイズを間違えて購入してしまいまして。返しに行くのが
面倒だったものですからよろしければ。もちろん過去に使用経験が
あるものがお嫌じゃなければ」
そう口では飄々と言ってのける京介の目は真剣そのもので。
確かに、その時の僕は手袋を持っていなかった。いつだって
コートのポケットに自分の手を突っ込んで歩いていたことも事実で。
僕は自分の手の上にふんわりと置かれたカシミヤなのだろう、
柔らかくて、温かい、まるでバラの茎みたいな鮮やかなモス・グリーン
の手袋を、それよりも温かさが優しさに変わった温もりを抱くように
その中に手を差し入れた。
「・・・ありがとう。その、大事に借りさせてもらうよ」
「ええ、そうしてくださると助かります」
僕の変な日本語を指摘もせずに、京介は肩を撫で下ろした。
「あったかい」
「ええ、もちろん愛の力が加算されていますから」
「はいはい」
僕は笑って、手袋をした自分の手を、この冬一番の冴え冴えとした
月の光の中に何度も映した。
この年の冬、一番最初に寒くなった日。
僕は初めてClassic ROSEに手を通し、その温かさを知った。
電車の中がめちゃくちゃ寒い日もあれば、暑い日もある。
今日はジャケット着てきて暑い…昨日は寒かったのに…
ええと、ツィッターはアカウントさえ持っていれば誰でも読めます。
ただ非公開なだけですが…
Uターンしたという書き込み多数よ。
では。行ってきまーす
今日はジャケット着てきて暑い…昨日は寒かったのに…
ええと、ツィッターはアカウントさえ持っていれば誰でも読めます。
ただ非公開なだけですが…
Uターンしたという書き込み多数よ。
では。行ってきまーす
当たり前中の当たり前なんだけど、京介は、女性に
興味がない、わけではない。と、いうよりも完全なる
フェミニストで紳士なので、生まれてこの方、女性に
対して悪い気持ちを持ったことがないんだと思う。
これは大学時代の話なんだけどさ。一緒に電車に乗って
いて、たまたま並んで座っていたんだ。空いていたから。
そのうちに、ちょっと混雑してきてさ、京介の目の前に
女性が立ったわけ。若いOLさんかな。スーツだったし。
彼女が目の前に立った瞬間に、京介は、サッと立ち上がり、
「よろしければお座りください」
って言うわけさ。もちろんその前に、しゃべっていた
僕に対しては、「話を中断して失礼します」って言うことも
忘れなくね。
もちろん健康的な女性であり、特に妊娠もしていないし、
具合も悪いわけではない女性に対して、普通はそんなこと
しないだろ。
彼女もビックリした顔をして「い、いえ」って断ったわけだ。
まあ、もっともその前に、京介の容姿にすっかり心を
奪われてしまったみたいだけどね。
京介は「それが普通」だからさ、ことさら紳士的に、
「華奢なおみ足にご負担をかけさせることは、貴方の美しさ
にとって得策とは言えませんよ」
と、微笑んで言うわけだ!もう究極って感じだろ。
もう彼女の目は完全にハートになっちゃってさ。そりゃそうだ
よ。
もちろん本人は意識しないで、これが「当たり前の行為」
だと思っているんだもんね。
これが紳士!とピカーッと後光が差しているみたいでさ。もう
周囲の男性は全員、思わず顔を伏せてくれてしまったぐらいだ。
それからしばらく、同じ電車で京介を探す彼女を何度か見かけた。
京介が在来線に乗るなんて確率は、一年に一度あるかないかで。
そう言ってあげたかったけれど、きっと京介の隣にいた僕のこ
となんて眼中にないだろうし、記憶にもないだろうから、僕は声
をかけてあげられなかった。
可哀想な事したな。
ああいうの一目ぼれって言うんだろうな。
興味がない、わけではない。と、いうよりも完全なる
フェミニストで紳士なので、生まれてこの方、女性に
対して悪い気持ちを持ったことがないんだと思う。
これは大学時代の話なんだけどさ。一緒に電車に乗って
いて、たまたま並んで座っていたんだ。空いていたから。
そのうちに、ちょっと混雑してきてさ、京介の目の前に
女性が立ったわけ。若いOLさんかな。スーツだったし。
彼女が目の前に立った瞬間に、京介は、サッと立ち上がり、
「よろしければお座りください」
って言うわけさ。もちろんその前に、しゃべっていた
僕に対しては、「話を中断して失礼します」って言うことも
忘れなくね。
もちろん健康的な女性であり、特に妊娠もしていないし、
具合も悪いわけではない女性に対して、普通はそんなこと
しないだろ。
彼女もビックリした顔をして「い、いえ」って断ったわけだ。
まあ、もっともその前に、京介の容姿にすっかり心を
奪われてしまったみたいだけどね。
京介は「それが普通」だからさ、ことさら紳士的に、
「華奢なおみ足にご負担をかけさせることは、貴方の美しさ
にとって得策とは言えませんよ」
と、微笑んで言うわけだ!もう究極って感じだろ。
もう彼女の目は完全にハートになっちゃってさ。そりゃそうだ
よ。
もちろん本人は意識しないで、これが「当たり前の行為」
だと思っているんだもんね。
これが紳士!とピカーッと後光が差しているみたいでさ。もう
周囲の男性は全員、思わず顔を伏せてくれてしまったぐらいだ。
それからしばらく、同じ電車で京介を探す彼女を何度か見かけた。
京介が在来線に乗るなんて確率は、一年に一度あるかないかで。
そう言ってあげたかったけれど、きっと京介の隣にいた僕のこ
となんて眼中にないだろうし、記憶にもないだろうから、僕は声
をかけてあげられなかった。
可哀想な事したな。
ああいうの一目ぼれって言うんだろうな。
「ユウさん、熱がありますね」
玄関を開けるなり、京介はそう言って慌しく靴を
脱いだ。
「あー・・・やっぱりそうかな。ちょっとボーッとすると
思っていたんだよね」
「熱は測りましたか?」
「あるな、という予感はしていたけど、まだ」
僕が不精隠しに首を竦めるのと、京介の手が額に触れられる
のと同時だった。
「少し汗ばんでもいらっしゃいますね。口を開けてみて
ください・・・ああ、喉も少し腫れていますね」
「そんな気がしてた。なにかお腹に入れて休もうかな」
「得策です。ご希望のものを購入してきますよ」
京介はコートも抜かずに、確かめるようにふわりと僕を
抱いたまま、頭の天辺に、額に、頬に、軽く唇を落とした。
「肉マンがいいな。コンビニの」
「コンビニでよろしいのですか?車で中華料理屋まで
行ってもすぐに戻って来られますよ」
仕事から帰ってきて疲れているだろうに、京介はそんな
労も惜しまずに微笑んでくれるものだからさ。
ついつい本音も出てしまうもので。
「熱があると、ちょっと心細いからね」
「それは私に側にいて欲しいという意味に取ってもよろしい
ですか」
「お、お腹も減ったしね」
「了解しました。愛しい人。さあ、リビングにお戻りください。
そしておとなしく私の帰りを待ってくださるように」
「約束します」
僕がおどけてあげた片方の手のひらに、京介は目を細めた
小さなウインクを投げて、また玄関を出て行った。
今夜はおとなしく、ね。
玄関を開けるなり、京介はそう言って慌しく靴を
脱いだ。
「あー・・・やっぱりそうかな。ちょっとボーッとすると
思っていたんだよね」
「熱は測りましたか?」
「あるな、という予感はしていたけど、まだ」
僕が不精隠しに首を竦めるのと、京介の手が額に触れられる
のと同時だった。
「少し汗ばんでもいらっしゃいますね。口を開けてみて
ください・・・ああ、喉も少し腫れていますね」
「そんな気がしてた。なにかお腹に入れて休もうかな」
「得策です。ご希望のものを購入してきますよ」
京介はコートも抜かずに、確かめるようにふわりと僕を
抱いたまま、頭の天辺に、額に、頬に、軽く唇を落とした。
「肉マンがいいな。コンビニの」
「コンビニでよろしいのですか?車で中華料理屋まで
行ってもすぐに戻って来られますよ」
仕事から帰ってきて疲れているだろうに、京介はそんな
労も惜しまずに微笑んでくれるものだからさ。
ついつい本音も出てしまうもので。
「熱があると、ちょっと心細いからね」
「それは私に側にいて欲しいという意味に取ってもよろしい
ですか」
「お、お腹も減ったしね」
「了解しました。愛しい人。さあ、リビングにお戻りください。
そしておとなしく私の帰りを待ってくださるように」
「約束します」
僕がおどけてあげた片方の手のひらに、京介は目を細めた
小さなウインクを投げて、また玄関を出て行った。
今夜はおとなしく、ね。






